世の中全体の健康への意識が高まる中、当然食に対する安全・安心を求める方は多くなってきているように感じます。「誰がつくった・育てた」食べ物なのかがわかるものを食べたい。丹波市氷上町には、そんな方々に支持されている卵農家さんがいます。卵を産む鶏が食べる餌にまでこだわり、遺伝子操作していない丹波産のもので大切に育んでいるという養鶏や、社長の考え方、今後のビジョンについてお聞きしてきました。
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・養鶏業を主に、農業やスイーツ作り等の6次産業化も行う養鶏農家
・養鶏業の現状と、これまでの流れ
・6次産業化へ本腰を入れていく為に、根幹の生産現場で人材を募集中
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今回は、代表取締役社長の芦田昭也さんにお話を伺ってきました。
芦田ポートリーの事業内容を教えてください
養鶏業がメインで、その他は6次産業化の一環として菓子製造業のスイーツ作りと、鶏糞堆肥を使った野菜・米作りが製造業を行っています。あとは廃鶏を利用したハム・ソーセージを外部委託で製造して、仕入れて販売しています。
各事業の規模的には、7割が卵、1割がスイーツ、1割が野菜・米作り、残りが総菜・ハム・ソーセージといったところかなと。
鶏はどれくらい飼われているのでしょう?
約9,000羽かな。鶏の数が増えるほど鶏舎が必要になるし、それだけ維持管理も必要になってくる。なんといっても生き物を扱う以上、途中どんなリスクが出てくるかわからないところがあるから、一部は生産委託もしています。
大手の有名なブランド卵と同じく、「この餌で、これだけの卵作ってください」といった形で委託している。これは経営面と生産面の安定のために。
生産委託もされてるんですね。委託先は基本的に丹波市内なんですか?
今は市外の、片道1時間~1時間半圏内でお願いしている。相手先は付き合いのある餌屋さんにお願いして探してもらって。自社では丹波市内に市島町の鶏舎と、事務所横の平飼い鶏舎の2か所あるけど、ここだけでは生産が追いつかなくなってしまって。
結局、100羽いても1,000羽いても、世話するのに同じ1日かかるわけなんで、「生産量を増やすために鶏舎を増設していく」というのは切りが無いんですわ。なので、原価を合わせるのに少ない羽数でいくか多い羽数でいくか、そこの調整も必要で、今は一旦、売上を維持するために外部委託という選択をとっているといった具合やな。
なるほど。ちなみに平飼いの鶏舎はどれくらい鶏いるんですか?
あそこは最大で1,000羽ほど。市島町にあるケージ飼いの鶏舎は10,000羽ほど入るけど、鶏舎の老朽化が進んできたこともあって、今は9,000羽ほどに抑えてる。
市島町の鶏舎は、2014年の水害の影響を受けたんでしたよね。
そう、水害の影響も受けたし、老朽化もあるし。なので、自社に関しては法人化した2012年当初に掲げた6次産業化という目標が、今後はマストになっていくべきでもあるかなと。
それ以前は羽数を増やして、卵の売上伸ばすのが本筋やったけど、今は6次産業化に手を挙げてることもあって、卵を使ったスイーツ作りで売上を伸ばす時期やと思ってる。養鶏だけじゃなくスイーツ作りとかの求人もしていったら、売上の形がまた変わってくるかなとは思う。
スイーツ作りはいつから始めたんですか?
スイーツは法人化と同じ2012年からやね。その年に6次産業化の認定を受けて。だからもう12年は経ちました。
最初はプリンからですか?
そう、最初はプリンから。それで、プリン作りを突き進めていたら、今みたいになったわけですわ。プリンを作ると、卵の白身が余るから、それでシフォンケーキを作るようになったりといった具合で。
今作っているスイーツはどういうのがあるんでしょう?
「今作っているもの」と「作ったことがあるもの」を含めたら、プリン、シフォンケーキ、カップケーキ、キャロットケーキ、カタラーナやね。あとはちょこちょこ試作品を作ったりも。今挙げた商品がちゃんと流通に乗ったものやわ。
なるほど。野菜なども作られているとのことでしたが、全て自社栽培ですか?
自社で栽培したものと、仕入れているものもあったりする。自社で作ってるのは白菜と玉ねぎ、ブロッコリーなど、冬に収穫できるもので鶏糞をよく消費してくれるものがメインやね。夏は、卵の作業が毎日ある中で、さらにキュウリとかトマトを採ってこなあかんとなれば大変やから(笑)
卵と野菜の販売先はどんな感じになってるんですか?
直売・卸売としては8割が生協やね。地元での販売としては、JAにプリンと卵、おばあちゃんに里のプリン、四季菜館に卵を卸してる。あとは、市内の飲食店にシフォンケーキやブリュレを出してもらったり。
自社で大きく直売するのもいいんやけど、すでに市内にある直売所は集客力があるし、多少の手数料を払ったとしても、お願いしてる方がメリット大きいんや。うちとしては少ない労力の負担で済むし、そっちの方が伸びるという判断やな。
配達は従業員さんがされてるんですか?
そうやね、ほとんどの配達を弟にやってもらっていて、弟が回り切れない近場は自分が回ってるという具合で。市外への配達は、基本的に一定以上の量があれば行く感じにしてる。「卵の生産量はもうこれくらいで」と考えるなら、野菜農家の取引先を増やして、アイテム数を増やしたら売上を伸ばせるかなと思ったり。
今、従業員は何人ですか?
正社員は2人で、あとはパートが11人やね。
養鶏は生き物相手の事業なので、年末年始問わず稼働してるんですよね?
そう、だからシフトを組んで対応してるけど、もう少し確立させたいなと思っているところ。
最近の経営的なネックは何かと言えば、やっぱり餌代の高騰なんですわ。それを下げていかないときつくて。でも、下げるためには、基本的に選択肢としては飼料米を使うしかないんやな。
素人質問で申し訳ないんですが、飼料米と普通の米って何が違うんですか?
普通の米は人間が食べる米で、飼料米は鶏が食べる餌になる米で、生産する際の目的が違う。あとは、飼料米なら一反あたりいくらかの補助金が出るという違いかな。どっちも、苗を育てて、田植えをして、収穫してという米の作り方は一緒なんやけどな。
なるほど。では品種の違いとかはないんですか?
飼料米という品種はないけど、多く採れる品種が推奨されていて、その品種を飼料米に当て込むといった感じやね。例えば、コシヒカリでもいい。ただ、一定以上の収穫量が求められていて、それを下回ると予定されていた補助金が受けられないといったことがあったりするわけやね。
ちなみに10,000羽育てるのに、餌を全て飼料米とするならどれくらい必要なんですか?
10,000羽となれば、1年間で40町ほど作る必要があるかな。簡単に言えば、100m×100mの田んぼが、40枚分。だから、この話はJAや行政、いろんなところが協力して取り組んでいかないと、出来た飼料米の置き場もないんですわ。
色んな物価が高騰してる中、お米はずっと値段が上がらないままやから、稲作農家に補助金出して飼料米を作ってもらうといった話が出たりするけど、結局作った飼料米をどこに置くのかという問題があって。じゃあそれをJAの倉庫貸してもらうとなれば、コンタミ(不純物が混入すること)の可能性が出てくるという問題があって難しかったりするんやな。
なかなか難しい問題ですね。
コンタミの解決方法としては、WCS(Whole Crop Silage)があって。稲を丸めてラッピングして、そのまま農地に置いておく方法なんやけど、ああいう形での保管ならコンタミはないと思う。なので、最近はあちこちに飼料米の話を持っていってます(笑)
鶏は基本的にひなを買うんですよね?
中雛といって、ひなから大きくしたやつね。
鶏は大体、何年くらい卵を産むのでしょう?
ひなからやったら、800日ぐらいかな。卵を産みだしてからは650日くらい。
生産を安定させる為に、周期をずらして鶏舎に入れていくんですよね?
そう。うちはひよこから500日くらいで止めてるから、いろいろと調整しながら。1ヶ月くらいズラしたり。偶数月に廃鶏を出して、奇数月に新しくひなを入れるみたいな形で年6回。あまり長く引っ張ったら次が入られへんし、適当な計算をしてたら延々と鶏舎が増えていくから、そうならないようにしてる。
すごい簡単に鶏舎を作れるなら話は別なんですけどね。
品質維持はメンテナンス次第かなあ。事務所横の鶏舎も2014年に建てて、もう11年。11年前はまだ自分も体がちゃんと動いてたけど、今はもうなかなか。
卵づくりで大事にしていることはありますか?
こだわった餌をやるとかはもう大前提やから、特に言うことはないかな。先日、年上の先輩と出会って話を聞いていたら、その人がまだ若い頃に研修へ行った時、親方から『鶏飼いは簡単や。水と餌やってたら卵を産む。そういう風に構築されてる。野菜よりよっぽどやりやすい。何が難しいかっていうたら、経営が難しい』と言われたそうで。全くその通りやなと思う。
毎日ちゃんと餌と水があるようにして、産卵率というものがわかる以上は維持しないといけなくて。要は日常管理やね。新しく鶏舎を管理する人が来たら、まずはちゃんと餌と水をあげて、卵を拾う。「こういうところに産むから」とか、一つ一つ教えていく。
最終的には経営にたどり着くにしても、結局、市場は農家が潰れたら輸入するしかないし、輸入するから農家が潰れるといった原理で動く側面があるけど、自分たち農家を守るのは自分たちしかないから、これからのことをもっと真剣に考える必要があるタイミングやなと思うかな。
芦田ポートリーを法人化するまでは個人事業だったんですか?
そう。芦田商店という屋号で、父親がやってたのを継ぎました。父親がやってたのはいわゆる卵の問屋さんやね。田舎の人が育てた卵を集めて、都会に持っていって販売するというものでした。
卵の生産を始めたのは、社長からなんですか?
そう、28歳の時やな。もう人生の半分卵作ってることになるな(笑)
当時の最初の鶏舎はどこだったんでしょう?
最初の鶏舎は、春日町野瀬の空いてた鶏舎を借りたところからやな。次に三木市の農場を借りて、そこは世話してもらいながら。その後、市島町の鶏舎も借りたけど、そこが水害で潰れてしまったんや。水害の一番ひどいところで、川の位置も変わってたくらいやって。
それを持ち主とボランティアで解体して、その後、市島町南地区の鶏舎が空いたから、それを譲り受けて、三木市の農場を返して、今に至るというわけ。
自分で卵を生産しようと思ったのはどういった理由があったのでしょう?
父親の得意先の中に、消費者団体があって、その頃の時代背景としては、森永ミルク中毒事件とか、添加物に発がん性物質があるとか、卵の色は合成着色料でつけたとか言われてた時代で、田舎の卵は安全性に優れたものがたくさんあったんやな。
当時は餌メーカーのブランド卵みたいなものがなく、皆自分のところで餌を配合してた時代でした。「自分で卵を作れば、直接消費者に売れるんちゃうか」と結びついたのが、そもそもの始まりやね。
その頃も結局、消費者団体側も牛乳と卵と野菜の取り扱いからスタートしていて、その中に卵があったから、その流れで産直がスタートしたという感じ。
卵の生産から流通、6次産業化とやってきて、次の展開に向けた節目のタイミングかなと考えてる。
今後の展望について教えてください。
うちの場合、経営の安定は卵の生産力の安定で、基本的には生産力の安定はずっと追いかけてきてるし、これからもそう。ただ、卵の生産量は今くらいがちょうどいいかなと思ってるから、自分のところと委託した分と合わせて安定的に販売できたらいいかなと。
丹波市内には、競合他社というほどの養鶏農家の数がないから、どこも京阪神に取引先があることでやってこれた。昔は丹波市内に直売所なんかなかったから余計にそうで。
モノさえ作っていれば売れる、種をまいたら向こうから勝手に注文がくるといった仕組みは常に考えておくのが経営やと思ってるから、それは今までやってきたことの延長やな。
なるほど。それに加えて、6次産業化などで付加価値をつけていくという感じでしょうか?
そう。今後はスイーツの生産量も安定的に向上させていくために、生産工場の拡張も視野に入れていたりもする。その場で食べられるようなイートインスペースを設けても面白いかなと思ったり、今まさに計画を実行しようとしている段階やな。
その中で、今後どういう人に来てほしいとお考えですか?
生産基盤を強化するために採用したいと思ってるから、まずは卵、畑や田んぼをやりたいと考えてる。新規就農希望者やな。もちろん販売や経営手腕がある人がいたらいいけど、今はそこまで求めてはないかな。何より、生産するのが好きな人。生産に携わりたいと思う人に、協力してもらいたい。
新規就農といっても、ずっとうちで雇用されたサラリーマンでは本人もおもしろくないやろうから、一農家として独立を希望する人も大歓迎。最初はうちである程度やって、紹介できる取引先とかこの辺の農家はどんどん繋げていくつもりでいるから、働き方や先のことについては柔軟に対応したいと思ってます。
生産現場から始まって、後にスイーツ作りに関わる人が出てきてもいいですよね。
そうやな。知らないことやわからないことは、仕事しながら自然と覚えていくやろうし、もちろんしっかり教えていきます。自分たちの会社の売上増加、自給飼料率の増加を狙っていきながらも、地域貢献もちゃんと考えて取り組んでいく。
何より、一緒に働いていて楽しい、やりがいがあると思ってくれる人たちと一緒に仕事したいと思っています。