初めて通りがかる人も思わずシャッターを切ってしまう、壮大な工場。丹波市南部の山南町谷川で、1955年からクラフトパルプを製造し、1991年からバイオマス発電を行っている兵庫パルプ工業株式会社に取材しにいってきました。
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◆無駄がほとんどないクラフトパルプ製造と発電の仕組み
◆時代の流れに沿った設備の導入と必要な対策
◆バイオマスエネルギーの地産地消が切り開く未来
◆壮大な計画を下支えする、現場で働く人たちの声
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今回は、工場長の足立哲尚取締役と、従業員の中西亮仁さん、石田勇さんの三人にお話を伺ってきました。
まず事業内容を教えてください。
弊社の事業は、UKP(=Unbleached Kraft Pulp。未漂白のクラフトパルプのこと)の製造販売と、発電事業の二本立てになります。クラフトパルプはなかなか世間一般には知られていないものですが、今の日本でこのUKPを専業市販しているのは、兵庫パルプ工業だけなんです。
クラフトパルプの使われ方としては6割が段ボールの原紙で、残りの3割程は建材。外装用サイディングボードや屋根材で、アスベストの代替材として注目されています。あと1割が特殊紙で、絶縁紙。電柱なんかに取り付けられる変圧器(トランス)の内部に使われています。
以前は日本にも同業他社が結構ありましたが、古紙化というのが進んで、やめていかれて。結果的にはうちだけ残ってるんですが、ここに来て発電と合わせてそれが強みとなってきています。二本立てにしていることで、今後も更に成長できる可能性があると思っています。
え?!兵庫パルプさんの敷地内で、発電してるんですか?!
そうです、発電所があります。67,000kWほどの電気を発電しています。この電気量は、今の丹波市の世帯数が約26,000世帯で、その市内で使われる電気の6.2倍ほどを供給できる電気を発電しています。
ええ?!そんなに発電してるんですか?!知らなかった・・・
敷地内に発電所だけでなく変電所があります。そこから、川を挟んで反対側にある電力会社の送電売電装置に繋いでます。電気って目に見えませんので、わかりにくいのですが。
弊社の敷地内で使われる設備の電気を賄っていまして、それ以外を電力会社へ売電しています。パルプというのは、世界の情勢の中ではとても浮き沈みの波が激しいのですが、電気は一定。なので、パルプの情勢が悪い時には発電事業に助けてもらってます。
クラフトパルプ製造と発電は、どういった流れで行われているんでしょう?
パルプをつくるシステムは全世界共通なんですね。木材のチップの繊維分がパルプになるんですが、繊維と繊維を引っ付けているものがリグニンという成分で、それを溶かす必要があります。溶かすのは苛性ソーダというアルカリ性の薬品がメインになります。
チップのおよそ半分がパルプになるんですが、パルプを取り出した後の残り半分はリグニンや使用した薬品、松ヤニなんかの脂分が混ざった液体で、それを黒液と呼んでいます。薬品以外はバイオマス燃料になるので、黒液を燃やして発電し、残った薬品は取り出して再度精製して苛性ソーダにするといったシステムで、そのサイクルが回っていると。
どうしてもロスする分もあるんですが、それも2%程です。その分は補充するんですけど、それだけでずっと回ってます。考えた人は本当にすごいなと。回収した薬品も本当にまた同じように使えますので、すごくよくできてます。
なるほど~!パルプ製造と発電って、とても合理的かつ効率的なんですね!
発電は全てバイオマス燃料で、3号機では先ほどの黒液、あと4号機と5号機では未利用材、一般木材、リサイクル材といった木材を使って発電しています。
バイオマス発電の4号機を建てたのもパルプに向かない、以前までなら産業廃棄物として処分しなければいけなかった製廃材、解体材といったリサイクル材をメインにしようと導入しました。チップの製造元と話をする中で、製材所から出る材をうちで全部引き取らせていただこうと。
原料も燃料も、そのまま放置していたら土に還るしかないものを、うちは有効利用してパルプと電力にリサイクルしています。しかもリサイクル過程にはほとんど無駄がないということで、2019年に兵庫県の環境にやさしい事業者賞をいただきました。
兵庫パルプ工業の最初の頃は、どれくらいの敷地だったんでしょう?
今の5号ボイラーがあるところだけでしたね。当時は加古川線に貨車があって運んでいたそうです。それから拡張していく際に土地がなかなかなくて、今みたいにこう山の方に伸びていきましたね。
※1955年頃の風景
今の場所でパルプ工場が始まった経緯はどういったことだったんでしょう?
兵庫パルプ工業の設立は1955年で、今年で67年目になります。その前身というのが1939年頃、元々ここら一帯には篠竹(しのだけ)というのがいっぱいあったらしく、それで竹パルプを作っていたそうです。それから、こういう木材からパルプを集め始めました。
立地条件というのも、この辺は山の中なんですが、通常大手はやはり流通の面で海沿いが多いのです。山の中でやってるところはほぼないのですよ。以前から、近畿一円で見てもチップからパルプをつくる製紙会社がほとんどないんですね。東で言えば春日井や静岡までないし、西にいくと米子まで、南も紀州しかないので。それもあってか、この界隈の材料を集めやすいというのもあったんじゃないかなと思いますね。
※1966年頃の風景
発電については、パルプ会社・製紙会社として初めてっていうくらい割と早く、1991年から始めました。古紙化が進んだ中で、国内でパルプが売れなくなってきた2002年頃からいち早く輸出も進めてきました。
その後、輸出が増えていた中、2014年になってドライパルプの製造を開始しました。もともとウェットパルプを作っていたんですが、水分量が50%もありまして輸送費がかかりますし、CO2の削減というところでドライにできないかという話があり実現しました。
※ドライパルプ製造の工程
あとは、関係会社になるのですがこの2017年に三台目のバイオマスボイラーを立ち上げました。この5号機では未利用一般材というものを使っています。
こうして、時代の流れに合わせて必要な設備を導入して、今に至っています。
関係会社といえば、他にも何社か入ってますよね。全て自社でやらなかったんですか?
そうですね、兵庫パルプ工業としてはプラントの操業をメインにしておくってことでやってます。外部との共存共栄も大事にしてまして、協力会社の皆さんには支えてもらっています。
重機を沢山つかわれている会社さんにはチップヤードの管理を、出来上がった製品をトラックに積む作業、製品のラッピング・梱包作業から出荷、構内の整備という風に役割を分担いただいています。
なんせ広いんですよ、敷地が。20万㎡もあるんですよ。甲子園球場が5個入ってしまうくらいの広さなんですね。我々では到底回しきれないところがあって、今の形になっています。
え?!広すぎません?!(笑)
もうほんと、めちゃくちゃ広いですよね。ちょっと工場見学しようかといっても、なかなか(笑)
あと、敷地周辺は独特のパルプ臭というか、臭いがありますよね。人によっては苦手な人も居そうですが。
クラフトパルプの製造にはどうしても作る過程で臭気が出ます。今は大分減ってきたんですが、過去にはお叱りも沢山いただきました。減ったといえども臭気があるのはあるんで、対策は継続的に進めていかないといけないと考えており、今後も取り組んでいきます。
一昔前は公害問題が沢山あり、地元の皆さんと問題や課題を共有して改善を進めていく必要がありましたので、地元の皆さんと環境委員会を設けて1978年から2カ月に1回、もう40年以上環境に関する話し合いを続けています。
2019年からは教育委員会、山南中学校とも環境情報交換会をこちらも2カ月に1回やっています。
毎日、どうしてもトラックが250台程通るので、登校時間の7~8時の間は工場周辺の通学路にあたる道路は走行を控えていただくよう運転手の皆さんにはお願いしています。トラックに積まれるチップは、対策してるんですがどうしてもこぼれたりしますので、年4回は敷地周辺を掃除したり。
兵庫パルプ工業として出来るだけのことはやろうと尽力しています。
なるほど。色々対策されているんですね。
兵庫パルプ工業としての、これからの展望を教えてください。
まず、クラフトパルプそのものの可能性がまだ十分あります。例えば、セルロースナノファイバー。パルプの繊維を細かく砕いたもので、鉄の7倍の強度で軽い。それを加工して靴のソールに入れたり、あとまだ実用化されてませんが車のボンネットに入れると軽くなって強度が出るといった研究が進んでいます。
近年では“脱プラ”が言われるようになり、その中でのパルプ100%の食品トレイや、リグニンから化粧品をつくろうとか、色んな動きがあります。世界には様々な技術があるので、それらをどう取り入れていくかを検討しているところです。
バイオマスエネルギーはとてもクリーンで、近年言われているSDGsや脱炭素化の時代も合致しているところがあり、このエリアで今検討されている新地域ビジョンにも当社が出来る取組みを提言している最中です。私たちが目指しているのはいわゆる“地産地消”ですね。
電気って色もなければ形もないんですが、電力・原料を地産のものを使って、地域のお役に立てればなあと思っています。
地産地消ということなんですが、今時点でどれくらいなんでしょう?
燃料でいえば、丹波市のものの約3割がうちに入ってきています。しかしその3割っていうのは、当社が使ってるものが100だとすると、わずか3%なんですね。丹波市以外から仕入れてきた分が97%です。
丹波市は75%が森林なので、もっと有効に活用できるんじゃないかというのが、先ほどのビジョンにも入っています。
元々、カーボンニュートラルは森林を伐採して木を燃やすとCO2が出ますが、新しい木は育つ過程で古い木よりもCO2吸収力が倍ほどあると言われているので、伐採と植林を循環させることでCO2削減になるという考えです。
ほんとに地産地消することでそういうところも回せて、人材も地域で就職促進できてくるので、兵庫パルプ工業だけでなく近隣の地域全体の活性化に繋がるなど、お役に立ちたいと思っています。
あとは、何より人材育成ですね。どんな設備も計画も、動かすのはやっぱり人ですので、人が何より大事。仕事上必要な資格取得以外にも対人スキルの講習などを実施して、社会人としてのレベルを上げていきたいなと。先を見据えて、またこれから新しく入れていく設備も5ヶ年計画で検討しているところです。
兵庫パルプ工業の平均年齢はいくつぐらいなんでしょう?皆さん、この界隈の人ですか?
平均年齢は36歳ですね。9割以上が近隣です。丹波市が一番多くて、西脇市、丹波篠山市、多可町に住んでいる社員がほとんどです。
※兵庫パルプ工業の社員寮。会社まで歩いていける距離にある。
たしか、とってもきれいな社員寮がありますよね?
そうですね、一昨年改修工事をしました。2,3階がファミリー向けで、1階が独身寮になっていまして、独身寮はまだ空きがあります。中はかなり整っていますし、外の駐車場は屋根ついてますし。実際、私も一週間程利用しましたがとても快適でしたね。
※上記写真三点は独身寮。
兵庫パルプ工業で働くのはどういう体系になっているんでしょう?
4組3交替というシフトになっています。4組3交替の勤務というのは、3日いって休み、3日いって休みという具合です。夜勤を三日して、休んで、次は朝から三日して、休んで、といった具合の勤務になるので、土日の休みがとりにくいんです。ほとんどの部署がこのサイクルです。
事務所などのスタッフは昼勤務ですけど、設備や機械装置が沢山あって、電気も制御が必要なので、どうしても24時間体制が必要になるんですね。興味があるとそれが楽しいんですが。モノづくりへの興味ですね。
24時間稼働させている方が工場としては効率がいいということですよね?
そうです。パルプを作る設備を年二回止めるんですが、止めてからまた動かすのに2日程かかるんですね。なので出来るだけ回しておきたいんです。単純な加工機だったらとめたり動かしたりが簡単にできるんですが、大型プラントはそうはいかないんです。
工場長としては今後どういう人に入ってきてほしいですか?
真面目な人がいいですね。何に対しても前向きに考えられる人。待ちの姿勢でいるよりも、自ら「これはこうしたらいいですか?」と聞いてきてくれる人。失敗してもいいんで、動きを止めない人がいいですね。
ただ、やはり3交替があるので、ご家族の理解がとっても重要ですね。夜勤と週末が必ず休みじゃないというところで、どうしても。
なるほど。ありがとうございます。ではお二人にもお話を聞かせてください。 中西さんは今おいくつですか?
今年で40歳になります。僕は丹波篠山市出身で、篠山産業高校の電気科を卒業後すぐここに就職しました。
ここに入ったきっかけは何だったんでしょう?
高校の先生に「地元離れずに働けるところがないか」ということで、出してもらったのが兵庫パルプ工業でした。若かったですし、当時はそんなに先のことを考えて生きていなかったのですね。
今の仕事は5号ボイラーの運転と、タービン発電です。つい最近、職長代理というポジションをいただきました。
職長代理って具体的にどんなお仕事されているんでしょう?
(中西さん)人材の教育、指導が主になるんですが、職長・従業員のサポートになります。職長代理のポジションをいただいたばかりで、わからないことの方がまだまだ多く、今は勉強すること自体がやりがいですね。職長代理は自分の担当以外のところにも目を向けて、全体的な流れの中で最適な動きをどうやってとれるかを考えるのが理想なのかな、と感じています。
(足立工場長)職長代理は大体50代になってからが多いんですね。ですので、中西は最も若いです。
抜擢というやつですか?
(足立工場長)抜擢です(笑)
すごいじゃないですか(笑)現場では夜勤があるということで、夜勤の楽しみ方ってありますか?
実は僕も得意じゃないんですよ、夜勤(笑)
でも、みんなが働いてる時に、朝帰って自分だけ寝れるっていうのがなんか嬉しいですよね(笑)遊びに出かけるとしても観光地も空いてたりしますし。得意じゃないんですけど、続けられてるので案外慣れるもんですよ。それよりもやっぱり、家族との兼ね合いですね。ほんと家族には助けてもらっています。
ありがとうございました。では、石田さんは今おいくつですか?
今年で30歳になります。僕は多可町出身で、高校は西脇工業高校でした。大阪工業大学を卒業後、地元で働きたいと思ってましたので、兵庫パルプ工業に決めました。
今のお仕事はどういうことをされているんでしょう?
今は施設部で、主に現場の機械の修理とメンテナンスをしています。設備の新設、改造も行う部署で、機械の担当をさせてもらってるんですが、ほんと面白いです。
こんな大きな工場で、機械扱うって、僕には想像つかないくらい大変そうです。最初はどんな感じだったんですか?
僕は最初現場で働いて、半年たってから今の部署に異動したんですが、昔から僕は機械好きなんで、なんでもこいって感じでしたね。
いいですね。仕事のやりがいはどういうところに感じてらっしゃいますか?
機械というのは急に壊れたりしますので、できるだけ短い時間で、ちゃんと直す。それが常に出来る。もちろん、壊れないように日頃から点検するのも重要です。「石田にゆうとったら大丈夫やろ」って現場の人から言われるように、頼まれるようになりたいなと思っています。
修理や新設する場面は一つの大きな計画を立てる感じになるんですが、これはすごく時間もかかりますし、自分一人の力では到底無理なんですね。でもそれを色んな人から協力を得て、コミュニケーションとって、少しずつ積み上げてカタチをつくっていくのが楽しいですね。色んなものが見れますし。僕はほんと、かなり好き勝手やらせてもらってると思います。
修理ってメーカーが直すんじゃないんですね?
そうです。簡単なものなら自分たちでできますが、難しいのはメーカーと一緒に進めていくていう感じです。
これは年末直したやつの工程です。シリンダーを直すんで、中のオイル抜いて、外して、部品を変えて、復旧するっていうのを、修理に必要な資料を集めてきて一日かけてやりました。
この時はメーカーに指導してもらいながらでした。レッカーも手配して、順番にばらしていって、こう戻しましたというのを写真に撮って、メーカーと試運転してっていう段取りをして。機械が好きなのでこういうのが得意です。
設備が大きいからこうして記録を残しておかないと怖いですもんね。
入ってすぐの時は「お前も見とけ」って上司に言われて、作業の手とめてポンプの修理して。それで見て、やって覚えていった感じですね。僕は事務作業よりもポンプ触ってる方が好きです。
操業の方は24時間回ってるんで、明確にここまでが仕事っていう線がないので、達成感がわかりにくいんですね。でも、この部署は時間内でやることが明確なので、やり甲斐の一つだと思っています。
なるほど、ありがとうございました。では最後に工場長から一言お願いします。
プラント操業に関わる仕事は、自分の時間をどう動くかで、次の人の環境が変わってくる側面があります。最初は自分のことで頭一杯になると思うんですが、余裕が出てきたら次の人の時間を考えながら、全体効率を考えてやるのが楽しいってなってもらえると嬉しいですね。
※福利厚生の施設であるパルプ会館内の大浴場。
今働いてる人も大半が、最初は全くわからない素人でしたし、入社後の教育支援や福利厚生は整えているつもりですので、機械や設備、当社の方向性に興味もっていただけた方は是非ご連絡ください。
いつも遠目にしか見れなかった兵庫パルプ工業の敷地の中に入らせてもらって、改めて壮大な事業に挑戦しているんだなということを肌で実感できました。壮大に聞こえる今後の計画も、現場で責任感もって働く従業員の人たちが在ってこそ。実現されていく力強さを垣間見れたインタビューでした。
※この記事は2022年1月24日に取材した情報をもとに作成いたしました。